交通事故
目次
交通事故に遭われた方へ
交通事故は、皆さんの平穏な日々を一瞬にして奪ってしまいます。
被害者の方は怪我の苦痛と闘い、ご家族はサポートに追われ、ギリギリの精神状態での生活を強いられます。
「何もいらない。ただ、元に戻して欲しい。」という交通事故被害者の唯一の望みは、私達がどれだけ尽くしても、叶えることができません。
私達ができるのは、平穏な日々を、突然に、一瞬にして奪われ、戦う術も、守る術も分からない被害者やご家族、ご遺族の代わりに、その苦しみ、無念を、賠償相手に適切に伝え、賠償金として適切なお金にかえることです。
そして、示談や和解、判決で事件として終了したとしても、ご本人、ご家族にとっては全く解決ではないことを心に刻み、代理人として役割を全うしたいと思っています。
交通事故の被害者のための予備知識
交通事故によって負った損害は、損害賠償として請求することになりますが、誰に対し、いくら、どんな方法で請求できるのでしょうか。
1.誰に対して請求するか
事故を起こした運転者が相手方となります。運転者と車の保有者が異なる場合には原則として、車の保有者に対しても請求できることになります。
また、事故を起こした車が自動車保険(任意保険)に加入しているときは、実際には、その保険会社の担当者と交渉することが多いでしょう。
2.どんな損害をいくら請求できるか
ここでは、損害の主たるものを説明します。
(1)治療関係費
医療機関を受診してかかった治療費、症状によって有効かつ相当な場合の柔道整復師(整骨院、接骨院)の施術費、装具や薬品代などの実費を請求します。
(2)付添費用
医師の指示または受傷の程度、被害者の年齢により必要であれば被害者本人の損害として認められます。
職業付添人の部分には実費全額、近親者付添人は1日につき6500円を請求します。但し、症状の程度や、被害者が幼児、児童である場合には、1割~3割の範囲で増額を考慮することがあります。
(3)入院雑費
入院1日につき1500円を請求します。
(4)交通費
症状などによりタクシー利用が相当とされる場合以外は電車、バスの料金を請求します。自家用車を利用した場合は実費相当額、ガソリン代は1kmあたり15円で算定します。
なお、看護のための近親者の交通費も被害者本人の損害として認められます。
(5)休業損害
受傷によって休業したことによる現実の収入減を請求します。
現実の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合は休業損害として認められます。
休業中に、昇給、昇格のあった後はその収入を基礎として算定します。
主婦の場合も、給与所得者と同じように、一定の基準で休業損害が認められます。
(6)傷害慰謝料
受傷によって入通院治療を余儀なくされ、それに伴う精神的苦痛を償うための慰謝料を請求します。
入院、通院をした日数やその症状の程度に応じて治療期間の範囲内で算定します。
(7)死亡慰謝料
死亡した人が一家の支柱(主たる稼ぎ手)か、母親や配偶者か、あるいは独身の男女、子供かというように、年齢や家庭生活に及ぼす影響などによって設定された基準に応じて請求します。
(8)後遺障害による慰謝料
治療を尽くしたが、例えば失明したり、足の長さが短縮したり、顔に傷痕が残ったり、難聴になったりというような後遺症が残った時は、その後遺障害に伴う精神的苦痛を償うための慰謝料を、傷害慰謝料とは別に請求します。
(9)死亡による逸失利益
被害者が事故で死亡していなかったとしたら、残り何年働いて(これを『就労可能年数』といいます。)いくら収入を得られたのかを算定して、その額から、被害者が生存していれば発生したと思われる生活費相当を差引いた額を請求します。
(10)後遺障害による逸失利益
交通事故のために後遺障害が残存したとき、就労能力がどうしても低下し、将来にわたって収入が減額してしまうことがあります。この減収部分を後遺障害による逸失利益として請求します。
(11)葬祭費
被害者が死亡した場合に、葬儀費や仏壇仏具購入費、墓碑建立費を請求します。
(12)将来介護費
後遺障害により、介護を必要とする状態になった場合には、介護費を請求します。
医師の指示または症状の程度により必要があれば被害者本人の損害として認められます。
職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円を請求します。但し、具体的な看護の状況により増減することがあります。
3.弁護士が交渉代理人になった場合の賠償額の特色
事故を起こした車が任意保険に加入している場合には、その保険会社の担当者が、加害者に代わって交渉の窓口になることが通常です。
この交渉に被害者の代理人として弁護士がつくと、両者の力関係に左右されず、適正な賠償が得られます。特に死亡の慰謝料や後遺障害の慰謝料は、本人が交渉する場合と比較し、裁判所基準によるため、高額になることが多いようです。
4.支払いを受ける方法
怪我も軽く、大したことがない場合は、交通事故の相手方が任意保険に加入していれば、その任意保険会社の担当者との話し合いで示談して支払いを受けることが通常です。
相手方が任意保険に加入していない場合は、相手方の自賠責保険に対し、120万円を限度に被害者から請求をかけることができます。
しかし、相手方の任意保険会社が示す損害額に納得がいかなかったり、自分で交渉することが忙しくて大変だったり、交渉の仕方が分からない場合には、弁護士に任せた方がよいでしょう。
5.弁護士に相談する時期はいつが適当か
事故後、できるだけ早い時期に相談した方がよいと思います。例えば、現に事故による怪我で入院していれば、入院中に弁護士に相談した方がよいです。
相談や交渉の依頼が早ければ早いほど、加害者である相手方と無用なトラブルを発生させることも少なく、同時に適正な賠償請求もしやすくなるからです。
それに、弁護士に依頼すれば、賠償の問題で不安を感じたり、イライラすることもなくなり、安心して治療に専念できるでしょう。
6.弁護士を頼むことの意味
大きく言って2つあると思います。1つは、相手方や保険会社との煩わしい交渉は弁護士に任せて、治療や仕事に専念できるということです。
加害者である相手方は見舞いにも来ず、保険会社の担当者からは、「今回の怪我なら、もう治っているはずだから、これ以上の治療費は出せない。」とか、「あなたの症状は、精神的なものに過ぎない。」と冷たく言われたショックでノイローゼになってしまったケースもあります。このように精神的な苦労から解放されることは、大変意味のあることではないでしょうか。
もう1つは、なんといっても、法律の専門家が、交渉や法的な手続をして解決してくれるのですから、適正な損害賠償を得られやすいということです。
7.弁護士の費用について
(1)弁護士費用を最初に決めておくこと
弁護士を頼んだ方がよいことは分かるけど、弁護士を頼むと、賠償金の多くを弁護士の着手金や報酬として取られてしまい、結果的に弁護士に依頼した意味がなくなるのでは、という素朴な疑問が出てくるかもしれません。
弁護士費用については、依頼する弁護士とよく相談して、最初にはっきり決めておかなければなりません。
(2)弁護士に依頼したときの費用と効果の関係につき説明を求めること
事故の賠償についての交渉を弁護士に依頼するときには、その費用と効果、つまりコストとメリットについて説明を求めるべきでしょう。
弁護士は、被害者が自分の独力で交渉した場合の予想賠償金と、弁護士が交渉した場合その手腕で勝ち取れるであろう予想賠償金の差額を予測して、その差額と弁護士の着手金および報酬の合計額を比較し、その合計額の方が低額であれば「弁護士費用を払っても、十分意味がありますよ。」と説明するでしょう。
しかし弁護士費用の方が高額になるようであれば、弁護士は「あなたの事故の場合には、弁護士の費用を計算すると、ご自分でやった方がよいかも知れませんね。それを理解されたうえで、仕事が忙しくて自分で交渉なんかやってられないとか、よく分からないから、煩わしいことは弁護士に任せたいということであれば、依頼されたらよいでしょう。」と説明してくれると思います。
つまり、弁護士に依頼したとき、弁護士費用を差し引いた手取りの賠償金額と自分が交渉する煩わしさや、時間的ロスを総合的に考慮して、弁護士を頼むかどうかを決められたらよいと思います。
(3)結論
軽い事故の場合には、どうしてもコストとメリットの関係はバランスを欠くことが多いでしょう。しかし、重大な事故の場合は、弁護士費用を支払っても、それを補ってあまりある賠償を得ることが多いでしょう。
なお、弁護士に依頼するときの費用と効果の関係をよく理解しておくことは、交通事故に限らず、多くの事件について弁護士を頼むときの依頼のコツのようなものですから、率直に弁護士に尋ねられるとよいと思います。