2018/4/26【だまされたふり作戦で、受け子に詐欺未遂罪が成立】
オレオレ詐欺の被害者が警察に協力する「だまされたふり作戦」を巡り、逮捕された受け子に対して、詐欺未遂罪の成立が争点になった裁判で、同罪の成立を認める事件がありました。
詐欺罪が成立するためには、①息子になりすまして電話する(欺罔行為)、②電話口の相手が息子であると勘違いする(錯誤)、③犯人に現金を手渡す(錯誤に基づく処分行為)、④犯人が現金を受け取る(財物の移転)という過程が必要になります。
しかし、「だまされたふり作戦」では、オレオレ詐欺の電話が終了して、被害者は既にだまされたことに気づき、錯誤の状態から脱しています。その後、受け子が呼び出しを求めた場所で現金を受け取った時点において、被害者はだまされたことに気づいているわけですから、③錯誤に基づく処分行為はありえません。
とすると、犯罪の途中から関与した受け子の行為は、犯罪の実現に全く役に立っていないかのように思われます。
そこで、事前の共謀が認められなかった場合、犯罪の途中から関与した受け子の行為は、無罪ではないかが問題になります(刑法上、不能犯と呼ばれる問題です)。
不能犯が成立すると無罪になりますが、これが否定されると未遂か既遂が成立することになりますので、被告人にとって重要な問題です。以下のように考える説が有力です。
例えば、砂糖が毒とラベルした瓶に入っており、一般人も毒が入っていると思う瓶の中身を飲ませようとする行為は、一般人が危険を感じるので未遂となります。
また、砂糖の瓶に毒が入っていて一般人が毒と思わなくても、犯人自身が特に毒と認識していた場合は、一般人は危険を感じるので未遂となります。
逆に、砂糖の瓶に毒が入っていて一般人も犯人自身も毒と認識していない場合、砂糖の瓶の中身を飲ませようとする行為は、一般人が危険を感じないので不能犯になります。
そこで、不能犯が成立するか否かは、犯罪行為時において、①犯人自身が特に知っていた事情及び②一般人が認識しえた事情を考慮して、一般人の見地から犯人自身の行為の危険性を判断すべきであるとする説が有力です。
「だまされたふり作戦」では、①犯人自身は、被害者が錯誤の状態を脱していることに気づいていません。②また、一般人としても、呼び出しを受けた場所に被害者が訪れれば、まんまとだまされてお金を持って来たと思うのが通常でしょう。
①と②の事情を基礎にすると(本当はだまされてないのに、だまされた状態にあると考えるわけです)、受け子が現金を受け取る行為に、犯罪を発生させる現実的危険があるといえます。よって、詐欺未遂罪が成立することになります。
(戸本)